東京地方裁判所 昭和50年(ワ)4751号 判決 1979年6月28日
原告 清水良憲
右訴訟代理人弁護士 沢藤統一郎
同弁護士 大川隆司
被告 ノースウェスト・エアラインズインコーポレイテッド
右代表者東洋支社長 レジナルド・C・ジェンキンス
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 福井富男
同弁護士 田中隆
同弁護士 吉田正之
主文
一 被告らは原告に対し、各自一七〇万五七八二円とこれに対する昭和五二年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、各自三五一万八一〇六円とこれに対する昭和五二年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(一) 事故
昭和四九年一〇月一八日午後五時、大田区羽田空港内ノースウェスト航空車両修理格納庫正面入口付近で、被告イセイアンが運転する旅客乗降階段付自動車(運輸省航空局航務課登録車両番号五六三七号、以下、本件ステップ車という)が後退していたときに、コンクリートブロックをはじき飛ばし、それが原告に当った。
(二) 受傷
そのため、原告は右膝部打撲傷、同部内側副靱帯損傷、膝関節部腫張を負い、昭和四九年一〇月二二日から五〇年一月二六日まで大田区内の高野病院へ九七日間、同年二月二七日から三月五日まで郡山市の太田総合病院に七日間入院し、そのごは高野病院へ通院して治療を受けた。
2 被告らの責任原因
(一) 被告ジェンキンス、同イセイアン
被告両名は、本件ステップ車にコンクリートブロックで車両止めが施してあり、そのまま後退させればこれをはねとばし、周囲にむらがっていた原告などを負傷させる蓋然性を認識しながら敢えて、そうでなければ注意を怠って、ジェンキンスが全力での後退を指示し、イセイアンは指示に従って車を後退させた。
(二) 被告会社
(1) 運行共用者責任
本件ステップ車を保有し、自己のため運行の用に供していた。
(2) 民法四四条の責任
被告会社代表者ジェンキンスは前述(一)の不法行為をした。
3 損害関係
(一) 治療費 五三万八七〇〇円
(二) 諸雑費 一五万円
入院一〇四日、通院実日数一一八日の間の諸雑費として太田総合病院往復費を含め一五万円以上の出費をした。
(三) 付添費 二五万円
入・通院に妻や妹が付添い看護した。
(四) 慰謝料 一〇〇万円
(五) 逸失賃金 一九一万五四八六円
(1) 賃金体系
(イ) 原告の給与は、基本給(ドライバー手当を含む)、ランプ手当、シフト手当、住宅手当、扶養家族手当、交通費から成る定額給と時間外、深夜勤務手当、それに賞与である。賃金支給日は毎月二五日であるが、時間外、深夜勤務手当は翌月払い、ストライキ参加による賃金カット分も翌月精算とされている。
(ロ) 基本給
原告の入社日三月一八日に定期昇給、四月一日付でベースアップがなされる。事故当時が一一万七九〇〇円(ドライバー手当一〇〇〇円を含む、以下同)、昭和五〇年三月一八日から末日までが一二万一六〇〇円、同年四月一日から昭和五一年三月一七日までが一四万一七〇〇円、三月一八日から末日までが一四万五五〇〇円、昭和五一年四月一日以降が一六万五一〇〇円である。
(ハ) 定額の手当月額
ランプ手当 三〇〇〇円
シフト手当 五〇〇〇円
住宅手当 昭和五一年三月まで一万二〇〇〇円、四月から一万三〇〇〇円、七月から一万八〇〇〇円
扶養家族手当 昭和五一年七月から九五〇〇円、一一月から一万五〇〇〇円
交通費 昭和五〇年五月まで五四〇〇円、六月から六三〇〇円
(ニ) 深夜勤務、時間外手当
(A) 基本給、住宅手当、シフト手当合計額を年間平均の月拘束時間で除して時間当り賃金を算出し、その四割が深夜勤務手当額となり、事故当時の時間単価は三三〇円である。時間外手当額は時間当り賃金の三割五分増しで、同単価は一一一六円である。
(B) 原告は昭和五〇年六月八日まで欠勤し、翌日から出勤したが、軽作業に従事しただけで、時間外や深夜の勤務に服するには受傷部位に支障が残っていた。このため、昭和四九年一二月から昭和五二年三月までに、毎月割当てられた筈の少なくとも四時間分の深夜勤務手当と一〇時間分の時間外手当を逸失した。計算上、一か月当り手当合計額は一万二四八〇円となる。
(ホ) 賞与
基本給、住宅手当、家族手当の合計を三・五倍した額である。
(2) 逸失賃金の計算基礎
(昭和49年11月分) 得べかりし基本給、ランプ、住宅、シフト手当、交通費合計(以上の合計額を、家族手当受給ごはそれを含めて以下において定額といい、Aと表示する)一四万三三〇〇円、深夜勤手当(事故時までに実際した三時間分)九九〇円、ストライキ参加によるカット額(以下、Sと表示)五七八二円、受給賃金(以下、Bと表示)六万九三一六円
(49・12) A同、深夜、時間外手当一万二四八〇円(以下、昭和五二年三月分まで同額なので掲記省略)、B八万一一九四円
(50・1、2) A同
(50・3) A一四万五〇六一円(基本給は当月総労働時間一六八時間を定昇前の八八時間とあとの八〇時間に按分して計算)
(50・4、5) A一六万七一〇〇円
(50・6) A一六万八〇〇〇円、B一二万二七五七円
(夏期賞与) 五三万七九五〇円
(50・7、8) A一六万八〇〇〇円、B一六万三四〇〇円
(50・9) A前同、B一八万〇七〇四円(当月二二四円過払いにより全体で調整)
(50・10) A、Bとも一六万八〇〇〇円
(50・11) A前同、B一七万三二五二円
(50・12) A、Bとも一六万八〇〇〇円
(51・1) A前同、B一七万四〇〇〇円
(51・2) A、Bとも一六万八〇〇〇円
(51・3) A一六万九六五一円(基本給は当月総労働時間数一八四を定昇前一〇四、そのあと八〇に按分して計算)、B前同
(51・4) A一九万二四〇〇円、B前同
(51・5) A前同、S一万二九四八円(四月中のストライキ参加一二時間分)、B一六万三二二二円
(51・6) A前同、B二〇万二七〇〇円
(夏期賞与) 六二万三三五〇円、B六〇万七九五〇円
(51・7) A二〇万六九〇〇円、B二〇万一七五五円
(51・8ないし10) A前同、B二〇万二七〇〇円
(51・11、12) A二一万一四〇〇円、B二〇万七二〇〇円
(冬期賞与) 六八万九八五〇円、B六七万四四五〇円
(52・1) A二一万四四〇〇円、B二一万〇二〇〇円
(52・2) A二一万一四〇〇円、B二〇万七二〇〇円
(52・3) A二一万四四〇〇円、B二一万一四〇〇円
(六) 傷病手当金受給額 六三万六〇八〇円
(七) 弁護士費用 三〇万円
4 まとめ
よって、原告は、被告らが各自、右不法行為に基づく損害賠償金三五一万八一〇六円とこれに対する不法行為日ごの昭和五二年四月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うように求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1について
(一)の事実は認める。(二)の事実は知らない。
2 同2について
(一)の事実のうち、被告らに故意または過失があったという点、ジェンキンスの指示内容が全力後退で、イセイアンがそれに従って全力後退したという点を否認し、その余の点は認める。(二)(1)の事実は認める。同(2)の不法行為の事実は否認する。
3 請求原因3について
(一)ないし(三)の事実は知らない。(四)の事実は否認する。(五)(1)の(イ)、(ロ)の事実は認める。同(ハ)の事実のうち、家族手当が昭和五一年一一月から一万五〇〇〇円であるという点は否認し、その余の諸手当額は認める。但し、交通費は性質上実費補償だから、欠勤のため必要でない期間分は支給を要しない。同(ニ)(A)の事実は認める。同(B)の事実のうち、被告会社が昭和五〇年六月八日まで原告を欠勤扱いとしたこと、原告が翌九日から勤務を再開、軽作業に従事したという点は認め、その余の点は否認する。(ホ)の事実は認める。(五)(2)の事実のうち、昭和四九年一一月分はすべて認める。同年一二月以降の深夜、時間外手当に関する主張は全部否認、各月の定額に関しては、昭和五〇年二ないし四月(但し、交通費を除いた限度で)、同年七月から昭和五一年五月までの分は認め、その余の点を否認する。すなわち、原告が他の従業員と同様に勤務していたと前提するならば、昭和四九年一二月はシフト手当がなく、しかも前月三日から一二月一五日までのストライキに参加したはずであるから、一二月分から一〇万六三三五円を、昭和五一年一月は原告主張の定額から五万八九五〇円を、同年五、六月は原告主張の定額から順次ストライキ四時間分、一六時間分として、それぞれ三四七五円、一万三九〇〇円を差引くべきである。昭和五〇年度夏期賞与は長期の欠勤がなかったならば原告主張額となるが原告にはそれを受給できる資格を欠いた。その余の得べかりし賞与額は否認する。被告会社が原告に支払った給与等の額は昭和五一年六月、昭和五二年二月、三月分を除き原告主張のとおりであるが、右三か月分として被告会社は差引合計二万六六四九円原告に対し精算されるべき過払をしている。(六)の事実は認め、(七)の事実は知らない。
三 抗弁
1 運行供用者責任阻却事由
ジェンキンスとイセイアンは本件ステップ車を後退させるにあたって、付近にいた原告その他の者を負傷させたりすることのないように、充分の注意を払ってゆっくりと後退させた。そのさい、原告は後退を妨げるためコンクリートブロックを車輪下に差入れ、壊れたその破片が原告に当ったのであるから、自己の故意または過失によって本件事故を招いたものである。本件ステップ車には事故の原因となる構造上の欠陥や機能上の障害もなかった。
2 正当防衛
当時、被告会社国際線の発着飛行便が一番混雑する時間帯がさし迫っていた状況の下で、被告会社日本支社労働組合に属する原告ほか多数の従業員はストライキを行うにあたって、被告会社が所有管理権を有し、発着する多数の乗客と貨物を処理するために不可欠な本件ステップ車ほか一群の機材を、既に承知させてあった業務命令に違反して所定の置場所から事故現場へ勝手に移動したうえこれを取囲んで実力で占拠していた。被告会社の正常な業務運営を確保するためには、本件ステップ車を第一番としてそれらを緊急に取戻す必要に迫られていたのであるから、ジェンキンス、イセイアンによる本件ステップ車の運転はやむを得ない正当防衛行為であった。
3 過失相殺
かりに被告らにも責任があるとしても、本件事故の発生については原告にも1で述べた重大な過失がある。
四 抗弁に対する認否
全部否認する。
第三証拠《省略》
理由
一 交通事故の発生
1 請求原因l(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 《証拠省略》によれば、1(二)の事実が認められる。
二 責任の所在と過失相殺
1 被告ジェンキンス、同イセイアンの過失について
運転操作をしていた被告イセイアンに対し、被告ジェンキンスは本件ステップ車の右後方に位置して、指示、誘導する役目をつとめていたことは当事者間に争いがない。《証拠省略》によれば、被告イセイアンが同ジェンキンスの指示に従って後退する過程において、本件ステップ車は車輪の後部に差入れられていたコンクリートブロックに乗りあげて車体が大きく傾き、そこで一旦前進してから勢いをつけて再び後退を図り、そのさい、左前輪で問題のブロックをはね飛ばしたこと、《証拠省略》によれば、二人とも原告を含む被告会社日本支社労働組合員多数が本件ステップ車の周囲に接着して群がり、その後退に対して妨害的行動に出ていたのをよく承知していたことが認められる。右事実によれば、後退の仕方次第では周囲の者に危害をもたらす可能性が十分にあり、これを予見できたのだから、車輪下の障害物の有無、車体左側の安全確認にも注意を払うべきであったといえる。したがって、両被告の過失は否定できない。
2 被告会社が本件ステップ車を自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。
3 正当防衛の主張について
《証拠省略》を総合すると、当日、原告を含む被告会社労働組合の組合員らは、「不良車両をハンガーに搬入せよ」という組合指令に従い、業務命令で所定の駐機場から移動することを禁止されていた本件ステップ車等の搭載業務関係機材を争議行為開始時刻に先立ち、一斉に事故現場付近に集結させ、組合側の事実上の支配下に確保したこと(整備不良という理由は被告会社の意思に反して組合の管理下におく行為を正当化するものではないし、実際に整備不良や欠陥が多少あったにしても争議上の戦術的口実であったとうかがわれる)、本件ステップ車をはじめとする諸機材は乗降客や貨物を捌くのに必要不可欠なもので、しかも、丁度これから発着便が一番たて混む時刻にさしかかっていて、他から必要なだけ間に合わせてすますことなど、とてもできない事情にあったこと、そこで、被告会社側では被告ジェンキンスの指揮の下に関係機材を早急に取戻そうとしたことが認められる。被告会社が組合員らの支配下に留められている機材を取戻す権利をもつという主張はその通りであるといってよいし、取戻す必要は早ければ早いほど好都合なものであったとみてよい。問題は1で述べた注意義務を尽さなかった点が「やむを得ない」ものと正当視できるかにある。侵害行為の態様、程度、急迫性について検討する。《証拠省略》を合わせると、組合員らは妨害的行動をまじえながらも暴力的、実力的に本件ステップ車の搬出を阻止しようとする行動まではとらず、主として説得や交渉によって搬出を諦めさせようとする範囲を出ていなかったこと、被告ジェンキンスらとしても不慮の負傷者などが出ることを好まず、危険を冒さないでその場の局面を切抜ける心積りでいたこと、事態は寸刻を争うような局面にまで発展していたわけではなく、現場には右被告の指揮下にある人数が待機していたのだから、彼らを本件ステップ車の周囲に誘導者として配置するなど他の適切な処置を期待できたことが認められる。右によれば、被告ジェンキンスら両名の運転上の過失は、被告会社の権利を防衛するためにやむをえないものであったということはできない。
4 過失相殺
《証拠省略》によれば、原告は本件ステップ車がコンクリートブロックにつかえて後退しきれず、一旦前進して再び後退に移る間隙に、妨害目的でコンクリートブロックを左前車輪の後退進路上に差入れたことが認められる。そうではなくて逆に、取除いたという趣旨の原告本人の供述などの証拠は採用できない。右事実によれば、原告の損害につき三割の過失相殺を適用するのが相当である。
三 損害関係
1 治療費 五三万八二〇〇円
《証拠省略》による。
2 諸雑費 七万五六〇〇円
入院につき一日五〇〇円の割で一〇四日分、通院につき二〇〇円の割で一一八日分を認めるのが相当で、その余は本件全証拠によるも算定の仕様がない。
3 付添費 〇円
原告本人の供述では認めるに足りず(後述のとおり、配偶者手当の支給開始時期は昭和五一年七月である)、そのほか付添の必要性についての確たる証拠もない。
4 逸失利益
(一) 得べかりし給与等
(1) 基本賃金(ドライバー手当を含む)
昭和四九年一一月から昭和五〇年二月までは月額一一万七九〇〇円、同三月一一万九六六一円、同四月から昭和五一年二月までが月額一四万一七〇〇円、同三月一四万三三五一円、同四月から昭和五二年三月までは月額一六万五一〇〇円であることは当事者間に争いがない。
これらの金額は《証拠省略》によれば、原告が平常通り勤務していたならば、昭和五〇年三月中に被告会社賃金規定表五等級六号から七号に、昭和五一年三月中に八号に、同年四月一日に九号に昇給していたであろうことを前提とするものであることが認められる。
(2) ランプ作業手当
月額三〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(3) シフト手当
月額五〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。なお、昭和四九年一二月にはシフト手当の支給がなかった旨の被告らの主張事実をうかがわせる証拠はないから、同月の予想支給額に算入しないわけにはいかない。
(4) 住宅手当
昭和四九年一一月から昭和五一年三月までは月額一万二〇〇〇円、同三月から六月までが月額一万三〇〇〇円、同年七月から月額一万八〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(5) 通勤手当
昭和四九年一一月から昭和五〇年五月までが月額五四〇〇円、同六月から月額六三〇〇円であることは当事者間に争いがない。なお、原告が昭和五〇年六月八日まで欠勤したことも争いがなく、この欠勤期間中の昭和四九年一一月から昭和五〇年五月までの分は《証拠省略》によって認められる通勤手当の性質からいって、予想給与に算入すべきではない。
(6) 扶養家族手当
原告が昭和五一年七月から妻の分として月額九五〇〇円の手当を受ける資格を生じ、同年一一月からは子供一名分増加したことは当事者間に争いがなく、その増加額は《証拠省略》によると一か月当り四五〇〇円であることが認められる。
(7) 超過勤務手当、夜勤手当
請求原因8(五)(1)(ニ)(A)の事実は当事者間に争いがない。そして、この事実に《証拠省略》を合わせれば、原告が通常どおり勤務していたならば、毎月少なくとも四時間の夜勤と一〇時間の超過勤務に従事していたものと推認され、その手当合計額は一万二四八〇円を下らなかったと認められる。
(8) 賞与
原告が通常に勤務していたならば昭和五〇年夏期の賞与額は五三万七九五〇円であること、昭和五一年夏、冬期とも基本給、住宅手当、家族手当の合計を三・五倍した額であったことは当事者間に争いがない。
(二) 損害額の算定
(1) 昭和五〇年六月八日までの分について
右欠勤期間中、被告会社が給与として昭和四九年一一月分六万九三一六円、同一二月分八万一一九四円、昭和五〇年六月分一二万二、七五七円を支払ったほかは無給扱いとし、同年の夏期賞与も支払わなかったこと、昭和四九年一一月支給分からは、原告がその先月中のストライキに参加したことによるカット額五七八二円を差引くべきことは当事者間に争いがない。ところで、被告らは原告が通常どおり勤務していたならばその間に行われたストライキに参加したことが確実だから、欠勤中の分も差引くべきであると主張する。しかし、両者は発生原因事実を異にし、負傷による欠勤に基づいて右カットを免れる利益をえた関係にないから、公平の理念上、その主張は採用できない。以上によれば、逸失利益額は昭和四九年一一月分六万三七九二円、一二月分六万九一八六円、昭和五〇年一、二月分各一五万〇三八〇円、三月分一五万二一四一円、四、五月分各一七万四一八〇円、六月分四万五二四三円、夏期賞与五三万七九五〇円となる。
(2) 昭和五〇年六月九日以降の分について
《証拠省略》によれば、原告が職場に復帰してから被告会社が原告に支払った給与は、昭和五一年六月、昭和五二年二、三月分については被告ら主張の額であることが認められ、その余の月の分と賞与の額は当事者間に争いがない。右金額の算出は、《証拠省略》によれば、基本賃金については原告が職場復帰した時点で五等級六号から七号に、昭和五一年四月一日に八号に昇給させてのもので、原告が前提とする基本賃金との差額は著しく縮小されるに至ったこと、元来、定期昇給は執務良好と認められた場合に許されるもので性質上その裁量にゆだねられており、原告の例では単に長期欠勤したということだけではなく、本件ステップ車の搬出にさいしブロックを差入れて業務を妨害したという既述の事実が考慮されたこと、《証拠省略》によれば、職場復帰の時点で原告は、マッサージ中ではあるが車両乗務は差支えない旨の診断が下っていたこと、しかし、原告は局部的に残存症状の自覚があったことから、一つには大事をとり、夜勤、超過勤務については同僚への迷惑をも慮って、日中の軽作業だけにしか従事しない意向を示したこと、被告会社はそこで人員配置上の手配りをしたほか、通院時間の有給化、原告のためのシフトの特別編成を処置したこと、そうしたなかで、《証拠省略》によれば超過勤務をした月がないではないことが認められる。以上の事実によれば、この時期の原告の夜勤、超過勤務手当を含む給与の減少と本件交通事故との関係は質的にも量的にも捕捉するのが大変困難で、総合的にみれば損益相殺によって損害となる実際的差額は生じていないと判断するのが相当である。
5 慰謝料 一〇〇万円
既述の関係事実を考慮すると、原告が蒙った精神的損害の額は一〇〇万円と算定するのが相当である。
6 過失相殺した額 二一九万一八六二円
7 損害のてん補 六三万六〇八〇円
原告が傷病手当金六三万六〇八〇円を受給したことは当事者間に争いがなく、これを右損害額から差引くべきことは原告の自認するところである。
8 弁護士費用 一五万円
原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち一五万円を本件損害として相当と認める。
四 結論
原告の請求は、被告らが各自、不法行為に基づく損害賠償金一七〇万五七八二円とこれに対する不法行為日ごの昭和五二年四月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすことを求める限度で正当であるから認容し、その余は理由がないから棄却する。民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項但書、一九六条
(裁判官 龍田紘一朗)